【名盤】People In The Box-『Kodomo Rengou』

フルアルバムとしては前作『Wall, WIndow』から約3年半ぶりとなる本作。Family Record, Weather Reportといった具合にタイトルは英単語2つで構成するという縛りみたいなものがあった(東京グールのEDだったシングル『聖者たち』でさえ『The Saints』で半ば強引にそのルールに当てはめていた)が、ここにきてKodomoとRengouというどっちも英単語ではなくローマ字となっている。最初見たときはなかなか陳腐な名前になりましたね、と悪い意味で驚いていたが今ではもう慣れた。慣れたというよりはアルバムの内容が良かったからセーフみたいなところもある。

 アルバム名はともかく、曲名も「無限会社」「町A」「眼球都市」といった具合によくわからない単語が並んでいる。無限会社は有限会社のもじりだとわかるが、眼球都市なんかは一見ホラーのタイトルにありそうなサイコを感じる。しかし、蓋を開けてみればタイトルから想像していたものとは良い意味で予想を裏切っていた。

 M1「報いの一日」は”ラララララ”と口ずさむところからぐらりとバランスが崩れそうなズレたリズムから始まる。アルバムへの入り口を感じさせる曲だが、開放感のあるオープニングと同時になにやら不穏な空気も醸し出しているのが魅力的である。

 M2「無限会社」はダークなテイストの曲。ジャキジャキとした音に物騒な歌詞が先程の不穏な空気を思い出させる。

 M3「町A」では一転して爽やかな印象へ。歌詞の中に出てくるフレーズや単語はやたら現実的なものが並ぶ。”中古車センター”なんてワードがピープルの曲に出てくるなんて想像したことはなかったし、なんなら他のあらゆる曲の中でも聞いた覚えはない。ましてやサビでそういう店名しか並ばないなんてことも同様である。町Aを構成しているのであろう単語の羅列だけで構成されたサビの歌詞だが、口に出してみると妙に気持ちいい。言葉としてというよりも音としての気持ちよさがある。無意味なようでワードの順番は考えられているような気がした。一連の説明だけで想像された方は「変な曲」という印象を抱かれただろうが、意外に曲としてはストレートに良いんですよ、不思議ですね。

 M4「世界陸上」でもそうだが本作はピアノが本格的に導入されているのがピープルとしては新鮮に感じられた。前作『Wall, Window』でも「月」がいわゆるピアノバラードの曲として収録されていたが、こうやって当然のようにピアノの音が入っているのが今回の変化の1つだと思う。

 全12曲の中でも個人的に一番好きなのはM10「夜戦」。この曲はもう本当に好きというか2018年に聞いた曲の中でもTOP3に入るレベル(完全に余談になるが2018年の個人的な邦楽ベストトラックはtricotの「potage」でした)で良かった。6分超の曲だが、曲の展開がもうたまらない。「夜戦」というタイトル通り、静かな夜に何かが密かに起こっている空気が見事に表現されている。どういう空気なんだそれは、となるかもしれないがこれはもうそういう空気としか言いようがない。加えて「ヨーロッパ」のような語りが途中で自然と入っているのもアクセントとして良い。曲名からして夜を感じさせるが、深夜と早朝の間あたりの時間帯に聴くとより一層入り込める。

 M11「かみさま」は本作でMVが作成されている曲なのでリードトラック的な位置づけなのだろう。歌詞からは温かみを感じるが、おそらくかつてだったらこういう歌詞の曲はなかったと思う。本作の1年前にリリースされた『橋本絵莉子波多野裕文』が日常に溶け込むような曲が並んだアルバムだったが、そこを経由したことも変化の一因かなとこの曲と「町A」なんかで感じた。神々しいという言葉があるが、それに親しみを加えたような雰囲気の曲である。

 今作はトータルで約1時間と通しで聴いてみると意外とボリューミーなアルバムになっている。本作ならではの良さもありながら、これまでの魅力も要所要所で感じられ、今までの集大成のようなアルバムだ。People In The Boxで最初に聴くとするなら『Family Record』辺りが挙がると思うが、本作『Kodomo Rengou』もその選択肢に入ってもおかしくない内容である。もちろんここにたどり着くまでの変化の過程も踏まえた上で聴くからこその良さも感じての評価もあるのだけれど、曲としての魅力はどれも強い。PITBのなかでも特に広くおすすめしたい1枚だ。

『Kodomo Rengou』
1.報いの一日
2.無限会社
3.町A
4.世界陸上
5.デヴィルズ&モンキーズ
6.動物になりたい
7.泥棒
8.眼球都市
9.あのひとのいうことには
10.夜戦
11.かみさま
12.ぼくは正気

 

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