【名盤】People In The Box-『Ave Materia』

 2012年リリースのPeople In The Boxの3枚目のフルアルバム。

 個人的に『Citizen Soul』を境に音楽性の変化を感じている。まさにその変化の始まりを感じるがこの『Ave Materia』というわけである。『Citizen Soul』は『Family Record』から『Ave Materia』へと移行する境目としてとてもおもしろいミニアルバムだと思っていて、そのいいとこ取りのような魅力が妙に気に入っているのだけれど、この『Ave Materia』はそこから昇華したような雰囲気がある。

 全体的にはエレアコを使用した耳障りの良い音を鳴らしながらも、メロディとしては不思議な感覚に満ちている。M3”球体”なんかはまさにそれを表していて、腹話術のようの歌声とメロディが不気味でありながら心地よくもある。聴いているとゆらゆらと脳が揺れている感じがする。

 美しいという意味ではM5”ダンス、ダンス、ダンス”が最初に印象に残った。MVにもなっているが、この曲の幻想的な雰囲気をここまで表現できる映像もそうないと思う。People In The Boxと加藤隆の組み合わせは”旧市街”を筆頭として最高なので、また手を組んでくれないかなと密かに思っている。『Kodomo Rengou』の”夜戦”とか絶対素晴らしいMVが出来上がるに違いない。本当に作って欲しい。

 そんな一方でM8”市場”のようなドロドロと渦巻くような不穏な曲なんかも毒を忍ばせていたりする。イントロの音からしてオリエンタルで怪しげな空気をまとっていて、曲の展開としてはこの曲がアルバムの中では一番好きだったりする。

 なんとなくPeople In The Boxはどのアルバムもラスト2曲が良いと思っていて、『Ave Materia』でもM9”さようなら、こんにちは”からM10”八月”の流れがやはり最高だと感じる。どのアルバムでも最後から2曲目でアルバムとしての空気を締めながら最後にエンドロール的な余韻に浸れる曲を配置している印象がある。”さようなら、こんにちは”ではアルバムタイトルでもある「Ave Materia」が歌詞にも含まれていて、馬車に揺られて進んでいるようなメロディがエンディングテーマっぽく感じる。

 音としての耳障りの良さ、心地よさという意味ではこのアルバムが一番好きかもしれない。全10曲、”序”を除けば9曲約40分とスッキリ収まったボリュームなのも聞き返すのにちょうどよい。

『Ave Materia』
1.序
2.時計回りの人々
3.球体
4.物質的胎児
5.ダンス、ダンス、ダンス
6.割礼
7.みんな春を売った
8.市場
9.さようなら、こんにちは
10.八月

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