【感想】People In The Box-『Camera Obscura』

People In The Boxの約3年半ぶりのアルバム『Camera Obscura』。
アルバムタイトルはカメラ・オブスクラというカメラの元となった装置を意味するようで、本来の意味は暗い部屋といった感じだとか。アルバムを通した上でタイトルを思い出すと言いえて妙に思えてくるのが面白い。

アルバムに収録されている曲名だけを並べるとどんな曲なのかさっぱりだったが、蓋を開けてみるとそう来るかといった驚きも多く、聴いていて楽しいアルバムというのが印象だ。

M1.DPPLGNGR
多分ドッペルゲンガーで読み方は合ってると思う。
アルバムの最初に持ってくるにしてはなかなかに無機質で不穏な始まりでぞっとしたが、サビまで来ると一気に視界が広がっていくような開放感がやってくる。静と動の緩急がジェットコースターのように訪れていき、全体的なアルバムの雰囲気を象徴するかのような曲である。

M2.螺旋をほどく話
リード曲ということで事前に視聴済みではあるが改めて思う、すごい韻踏むじゃん。
個人的にはFamily Record及びKodomo Rengou以前以後みたいなものを作品の流れとして感じているが、このKodomo Rengouを経てる感が好きなんですよね。
神視点のように俯瞰しながらもどこか世俗的というか、音としても温かみが感じられるのがいい。

M3.戦争がはじまる
物騒な曲名だが、どこか牧歌的な印象のある音。しかし、徐々にスピードを上げて草原を駆け抜けていくような展開と底抜けに朗らかな転調、そして唸りを上げるという流れがたまらない。4分半なのに満足感の高い内容で、アルバムの中でもお気に入りの1曲。

M4.石化する経済
ある男の独白のような歌いだしから穏やかに流れていく。不安定なというか不気味なというか不規則なゆりかごに揺られているようなグラつきが面白い。
ここにきてスピードを落としてゆったりとしてくるのでアルバムとしても一捻りしてきている。

M5.スマート製品
すごい多国籍な音が鳴るアジアンテイストだったりアラビアンテイストだったりが感じられる。曲としての楽しさではアルバムの中でもダントツだと思う。
こういう音入れたら面白いよねとかこういうエフェクト入れたら面白いよねみたいなおもちゃ箱をひっくり返したような曲になっている。
民族音楽のようでサイバーパンクのような雰囲気もまとっていたりとなんだこれはと初めて聴いたときは楽しくて笑ってしまった。
ちなみにこの曲で使われている音の正体は公式チャンネルで収録風景がアップされているので見てみるとより一層楽しめるかもしれない。意外な答えだった。

M6.自家製ベーコンの作り方
ネットで検索したら趣味ブログが引っ掛かりそうなタイトルである。曲名と実際のイメージが最も想像つかなかった。
曲名の雰囲気からも漂っているが、日常的な温かみを感じさせながらも風が吹き抜けるような爽やかさがある。風通しの良い一曲。

M7.中央競人場
ちょっとグロテスクなSF小説みたいな曲名からも想像できるように物騒な音が流れる。
這いずり回るベースの音もなかなかにホラーだが、ノイズ混じりのボーカルや記号的な歌詞も曲としての恐ろしさに一役買っている。

M8.水晶体に漂う世界
いつの間にやらアルバムも残り2曲ということで、アルバム全体の世界を1周したような終わりを感じさせる雰囲気が漂っている。
重ねられたコーラスや繰り返されるフレーズが賛美歌的である。

M9.カセットテープ
ラストはエンディングテーマとしてあまりにも清々しい朗らかなメロディである。
最初は驚くほど心地よい音にびっくりしたが、こういうストレートにいい曲を最後に置かれるとアルバムとして聞くことの楽しさはこういうのだよなと思う。
ピアノベースの童話じみた世界が繰り広げられるものの、顔を隠しきれていないアルバム全体の物騒さがちらりと見える。
ただ、曲として純粋に楽しく明るいので、これを聴いちゃうとアルバム最高ってなりますよね……と感じたところで最後の最後にまさかの音が待っているという。
これまたアルバムとして聴かせることの面白さですね。

全体的にある種の生々しさのようなものを孕みつつも、バラエティ豊かな曲が並び、アルバムを通した流れとしても非常にきれいなものになっていて、3年半ぶりの新譜という期待をしっかり満たしてくれた。
曲が良いのはもちろんのこと、音としても面白いものが多く、歌詞も韻を踏んでいるのがちょくちょく見られたりと、これまでの良さと新しい要素が組み合わさっていて、ここに来てまた知らない一面が見られたような気がした。
今作は制作風景がYouTubeで色々と見られるので、そちらを視聴した上で聴き返してみるとちょっとした答え合わせのような発見があって更にアルバムを楽しめるかもしれない。
相変わらず良いアルバムだった。

『Camera Obscura』(Amazon)
1.DPPLGNGR
2.螺旋をほどく話
3.戦争がはじまる
4.石化する経済
5.スマート製品
6.自家製ベーコンの作り方
7.中央競人場
8.水晶体に漂う世界
9.カセットテープ

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