【名盤】People In The Box-『Family Record』

 2010年リリース。

 メジャーデビュー後の初のフルアルバムということで、『Ghost Apple』からしてだいぶコンセプチュアルだった(曲名に曜日を冠した全7曲のミニアルバム)が、今回は”東京”から始まり”アメリカ”や”ベルリン”と地名を用いた曲が多くを占めている。さながらPeople In The Box的世界一周旅行の様相を呈しているわけである。

 このアルバムに収録されている曲の中でもひときわ存在感を放っているのはM5”旧市街”だろう。そもそも自分がPeople In The Boxを本格的に聴き始める切っ掛けになったのがこの曲だったりする。MVにもなっているが、映像で繰り広げられる寓話的な世界と曲がこれほどマッチしているのも不思議だと思う。こうくるのか、という展開とそれをすんなりと聞かせる構成力に圧倒されて、やばいなこれはとなったのをよく覚えている。そして、”旧市街”が収録されている本作『Family Record』を聴いて再び衝撃を受けたのがとどめだった。


 
 曲名の中には対称的な名前の曲が入っており、前述の”旧市街”の対義語でもある”新市街”もそうだし、M6”ストックホルム”の後にM7”リマ”が続いていたりもする。ストックホルムとリマはどちらも後ろに「症候群」をつけると対比が生まれる。「人質が犯人に好意を抱く」のがストックホルム症候群で、「犯人が人質に好意を抱く」のがリマ症候群である。曲名からはどれも曲の雰囲気が想像しにくいが、”リマ”なんかはこんな名前でクリスマスソングっぽいのが面白い。

 アルバムの中でクライマックスを飾るラスト3曲が特に好きだったりする(M10”スルツェイ”~M11”JFK空港”~M12”どこでもないところ”)。”スルツェイ”は駆け抜けていくかのような疾走感のなかに儚さも感じられ、息もつかせぬ展開の中でラストスパートをかけていく。”JFK空港”は約8分半という長尺の曲であり、これまでの旅路を振り返るかのような歌詞でアルバムとしても物語としても終わりを感じさせるような曲となっている。そして、余韻を味わうかのような”どこでもないところ”で終わるという締め方が巧みだと思う。余談だが、”JFK空港”を女性ボーカルでピアノ演奏をバックにカバーしている動画があり、それが個人的にかなり好きだったりする。

 ギターロックとしてのPeople In The Boxの到達点は間違いなくこのアルバムだと思う。これ以降はアコースティックになったり、民族音楽的要素が入ったり、鍵盤を導入したりと多少の変化がある。そういう意味ではThe Bends的な立ち位置とも言えるのかもしれない。あんまり比べるのもあれかもしれないが。

 もしPeople In The Boxを人に勧めるとしたら本作は真っ先に候補に上がるだろう。そういう代表作でもあると思うし、邦楽としても2010年代の名盤として評価されていいアルバムである。興味があったらまずはここからと思わず言いたくなる、そんな普遍的な魅力を持った名盤だ。

『Family Record』
1.東京
2.アメリカ
3.ベルリン
4.レテビーチ
5.旧市街
6.ストックホルム
7.リマ
8.マルタ
9.新市街
10.スルツェイ
11.JFK空港
12.どこでもないところ

タイトルとURLをコピーしました