【名盤】People In The Box-『Tabula Rasa』

 『Tabula Rasa』はライブ会場限定で販売されたPeople In The Boxの全8曲入りのミニアルバム。アルバム自体はサブスクも同時期に解禁されたので会場に足を運べなかった人も各種ストリーミングサービスで視聴することができた。後に公式ストアでの販売も行われるようになったので、従来の作品と同様、入手しやすくはなっている。ちなみにそのお陰でちゃんと聞けています。こんなご時世だったんでね……。

 まずは通しで聴いた感想として真っ先に思ったのが「ちゃんと流通させなよ」っていうことだった。前作の『Kodomo Rengou』がとても良かったし、あれ1枚で数年くらいは新譜を出さない言い訳にできるレベルだと思うので、それからさほど間を置かずに出てきたのがこのクオリティだったら会場限定なんかじゃなくて普通にリリースしてほしかったという気持ちはどうしてもある。いろいろな事情はあるんだろうけども。

 それはさておき、アルバム全体の雰囲気としては『Kodomo Rengou』の延長線上にありながらもより一歩先へ進んだような印象だった。今作ではピアノが曲に入ることももはや当然であるかのように馴染んでいる。M1”装置”なんかはもうそれを象徴するかのような美しさと温かさが混じり合ったようなメロディで、でも最後にほんのり毒の入った感じがぐっときた。

 全体的な感じは美しいという言葉が似合うメロディとどことなく現実を俯瞰した歌詞で構成されていて、最後のM8”まなざし”を聞き終える頃にはすっとどこでもないところに連れて行かれたかのような気持ちになる。そんな中でも特に個人的に好きだなと思ったのがM4”忘れる音楽”、M5”ミネルヴァ”だった。

 ”忘れる音楽”は流れるような曲の展開もさることながら音が心地よく、聴いているとすっと体に染み込んでいく。おそらくアルバムの中では現時点で一番聞いている曲だと思う。そして、そこからの”ミネルヴァ”という流れがまた良い。このタイプの疾走感のある曲は今まであまりなかったし、何よりやたら韻を踏んでいる歌詞はピープルでは新鮮である。それに加えて一人称が「俺」っていう。そういえば「俺」ってなかったよな、と思いながらもこの曲に関しては妙にしっくり来る。サビの部分なんかはスポーツドリンクのCMソングで流れていても違和感ないんじゃないかなと思うような爽快感。この曲はアルバム全体の中でも異質な感じがするが通して聴くとすんなり溶け込んでいるのが不思議。ちなみにサブスクとCDでは”ミネルヴァ”のアレンジが異なる。CDを購入するまではSpotifyで聴き倒していたので、気づいたときには驚いた。聴き比べて違いを確かめてみるとけっこう変化があるのでぜひ確認してほしい。

 正直なところ本作に対しては『Kodomo Rengou』が出ていた時点で無意識にハードルを上げて聴いていたのだけれど、そんな期待もなんのそのといった感じで純粋に良いアルバムだと思った。何より、今作でさらにまた一歩進んでいるように感じられ、それもあってやっぱり好きな音楽だなと再確認できた。

Tabula Rasa(Amazon)
1.装置
2.いきている
3.風景を一瞬で変える方法
4.忘れる音楽
5.ミネルヴァ
6.2121
7.懐胎した犬のブルース
8.まなざし

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